タイでビジネスチャンスをつかむ: デジタル経済

    By Panupan Udomsuvannakul, Nonthagorn Rojaunwong と Prang Prakobvaitayakij, Chandler MHM
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    外国投資

    M&A

    タイでは新たな技術革新の導入が進み、スタートアップ企業や投資家にとっての機会が生まれています。それに伴い、タイのデジタル経済は、近年、飛躍的に成長しています。政府は、さまざまな政策やインフラ整備を通じて、デジタル経済の発展を積極的に推進しています。その結果、デジタルビジネスやスタートアップ企業が増加し、オンラインを利用する消費者も拡大しています。

    本稿では、フィンテック、モノのインターネット、ブロックチェーン、サイバーセキュリティなど、タイのデジタル経済のエコシステムの最新動向を取り上げます。

    フィンテックの動き

    フィンテック市場にとって重要な一歩となったのは、タイ中央銀行(BOT)が2022年に発表した、同国の金融状況に関するコンサルテーションペーパー「Repositioning Thailand’s Financial Sector for a Sustainable Digital Economy(持続可能なデジタル経済に向けて、タイの金融セクターの位置付けの見直し)」です。BOTはこのペーパーを通じて、中央銀行が今後進む道を3つの戦略的方向性で示し、テクノロジーとデータの活用、環境と家計の持続可能性、レジリエントな監督アプローチに関する今後の方針を説明しています。

    Panupan Udomsuvannakul, Chandler MHM
    Panupan Udomsuvannakul
    Chandler MHM(バンコク)、パートナー
    電話: +66 2009 5152
    Eメール: panupan.u@mhm-global.com

    BOTは、預金受入機関市場における金融イノベーションと競争の促進を目的として、仮想銀行という新たな形態の商業銀行を許可する予定です。2023年1月、「仮想銀行ライセンス・フレームワーク」がパブリックヒアリングのために公表されました。このフレームワークでは、仮想銀行は従来の商業銀行と同じ範囲のサービスの提供を認められますが、実店舗やオンライン支店を持たずに、デジタルチャネルを通じて事業を運営しなければなりません。

    最初の3年〜5年の限定的運用段階では、仮想銀行は中央銀行によって注意深く監視されます。すべての業務を実施できる段階に仮想銀行が進むには、一定の評価基準(たとえば、デジタル化が進んでいない金融環境では、利用可能なアクセスやアウトリーチが限定され、十分なサービスが受けられない消費者や中小企業に、金融サービスを提供できることなど)を充足する必要があります。

    このフレームワークは2023年の第2四半期を目途に法制化され、その後、6カ月間の初回の申請期間を経て、最大3件の仮想銀行ライセンスが認められます。2024年第2四半期前後に第1世代の仮想銀行のリストが発表され、2025年第2四半期までに事業を開始する予定です。

    また、オープンバンキングについては、BOTはタイ銀行協会および政府系金融機関協会と共同で、2022年1月に「dStatement」プロジェクトを開始し、融資申請のデジタル化のため、商業銀行が取引明細書のデジタルデータを交換できるようにしました。dStatementを利用するオープンバンキングの取り組みは、先駆的なプロジェクトだと言われています。

    また、BOTが2023年2月に発表した「Directional Paper on Sustainable Solutions to Thailand’s Structural Debt Overhang Problems(タイの構造的債務超過問題の持続可能な解決に向けての指針)」には、データ活用に関する取り組みの詳細が2023年前半までに公表されると記載されています。データ交換の範囲は、商業銀行以外の金融事業者、公共事業や保険会社などの、他のセクターの事業者にも拡大される予定です。中央銀行は、3年以内に現金使用量の減少率を2倍にし、5年以内に紙の小切手使用量を半減させる計画です。

    現金利用の減少が続く過渡期には、現金管理に要するリソースの削減のため、銀行代理店やホワイトラベルのスマートマシン(すべての銀行が発行するカードに対応する各行共通のATM)を通じて、現金を流通させる予定です。

    モノのインターネット

    Nonthagorn Rojaunwong, Chandler MHM
    Nonthagorn Rojaunwong
    Chandler MHM(バンコク)、シニアアソシエイト
    電話: +66 -2 009 5193
    Eメール: nonthagorn.r@mhm-global.com

    タイでは、官民両セクターにおいて、モノのインターネット(IoT)に対する受容性が高まっています。2019年初め、国家放送通信委員会はチュラロンコン大学と共同で、より円滑で効率的なIoT体験をもたらす5Gのテストのため、5G人工知能(AI)・IoTイノベーションセンターを設立しました。一方、2019年12月に5G周波数オークションに関する規則が発表され、2020年2月にオークションは順調に終了しました。

    2022年10月24日に発表された、第13次国家経済社会開発計画(2023年~2027年)においても、5Gとインターネット全般の利用促進について種々言及されており、国内のインターネットアクセス拡大に向けた次のステップとともに、重要性が強調されています。

    民間セクターの2022年のIoT支出額予測では、製造工場の支出額が23億7000万バーツ(6900万米ドル)と最も高く、次いで都市管理システム、輸送・物流、小売、車両、家計管理システム、公衆衛生システム、建設・作業現場、オフィス管理システムとなっています。

    ブロックチェーンの活用

    オンライン本人確認(eKYC)普及のため、官民両セクターの連携により、国家デジタルID(NDID)システムが開発されました。このデジタル本人確認システムは、BOTの規制サンドボックスにおいて開発されたもので、ブロックチェーン技術を通じて公開鍵インフラストラクチャで情報を暗号化し、分散して保管するという分散型コンセプトにより設計されています。

    このシステムは、国際的な基準に沿った電子取引の効率性、透明性、安全性を保証するために、「データのセキュリティとプライバシーを設計に組み込む」という原則のもとに運用されています。NDIDシステムの開発は、デジタル経済の発展に向けたタイ政府の政策に沿ったものです。NDIDプラットフォームは、認証や情報交換を目的とする参加者間の通信の安全性と信頼性の向上を目的とするエコシステムです。このプラットフォームは3つの主要な参加者を結び付けます。

    1) 利用企業:ID提供者のeKYCサービスを利用して顧客の本人確認をすることを望む、直接顧客と接するサービス提供者(たとえば、証券会社や保険会社など)
    2) IDプロバイダ:NDIDプラットフォームを介した利用企業の要望に応じて、顧客のIDを証明し、顧客に認証コードを発行する(たとえば、銀行など)
    3) 公的な情報源:信頼できる情報を提供し、IDプロバイダによる認証が完了した場合にのみ、利用企業への顧客データの公開を許可する(たとえば、公的記録を保持する国家信用報告機関または他の公的登録機関など)

    このような仕組みにより、個人情報はNDIDプラットフォーム外の公開鍵インフラストラクチャを通じて二者間に限って移転されるため、プライバシーとセキュリティが強化されます。

    デジタル通貨ブリッジ

    Prang Prakobvaitayakij, Chandler MHM
    Prang Prakobvaitayakij
    Chandler MHM(バンコク)、アソシエイト
    電話: +66 2009 5119
    Eメール: prang.p@mhm-global.com

    プロジェクト・インタノンの成功を受けて、BOTを中心とする共同パートナーシップは、次のステップである分散型台帳技術の利用について調査を開始し、プロジェクトの名称は「多国間中央銀行デジタル通貨ブリッジ(プロジェクトmBridge)」に改められました。

    プロジェクトmBridgeは、分散型台帳技術とホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)を通じて、効率的で低コストの国際貿易取引の促進する国際決済プラットフォームです。中央銀行が中央銀行のために設計したこのプラットフォームでは、モジュール機能、拡張性、コンプライアンスに重点が置かれ、各国・地域に固有の政策や法的要件に対応可能です。6週間の試験期間中、香港、中国本土、UAE、タイの商業銀行20行が、mBridgeプラットフォームで発行されたCBDCを使って、総額2200万米ドルを超える取引を実際に行いました。このパイロット版では、政策、法律、規制に関して検討が必要な事項が明らかにされました。今後、実用最小限のプロダクト、そして最終的にはリリース可能なシステムの完成に向けて開発が続けられます。

    このパイロット版では、国際貿易で使用されることが多く、現地通貨でのクロスボーダー決済が可能だと考えられる、以下のような取引類型を対象にしています。

    1) 同一国内での中央銀行・商業銀行間のCBDCの発行と償還
    2) UAE企業が中国本土の企業に、プラットフォーム上の参加商業銀行を通じてデジタル人民元で支払いをするなど、現地CBDCによる商業銀行間のクロスボーダー決済
    3) タイの銀行が香港の銀行と、プラットフォーム上でデジタル・タイバーツとデジタル香港ドルを交換するなど、商業銀行間の現地CBDCによる外国為替取引

    サイバーセキュリティの監督

    現在施行されている「2019年サイバーセキュリティ法」は、サイバーセキュリティ活動の監督と、サイバー脅威と闘うための仕組みの策定を目的としています。最近の動向には、2022年末に国家サイバーセキュリティ委員会が「政策・行動計画(2022年~2027年)」を公表し、サイバーセキュリティ法に基づくサイバーセキュリティの枠組みを定めたことが挙げられます。これを受け、今後、サイバーセキュリティに関する規制や取り組みが増加すると見られます。

    フィンテックの普及や事業プロセスのデジタル化が進む中、サイバーセキュリティの規制を主導する当局とともにBOTも、金融市場におけるサイバー脅威に強い関心を寄せています。タイでは近年、オンラインバンク詐欺により深刻な被害が発生しています。これを受けBOTは、金融事業者に対し、従来の厳しいサイバーセキュリティ対策に加え、2023年3月9日に新たな詐欺防止策の実施を義務付けました。

    これには、銀行が送信するSMSやメールにリンクを貼ることの禁止や、各銀行に対して、詐欺や不正行為についての24時間対応ホットラインの個別設置を義務付けることなどが含まれます。また、立法機関は現在、「サイバー犯罪の防止と抑制に関する緊急政令」の草案を検討しています。この政令により、サイバーセキュリティの脅威に対し、より組織的な対処が可能になると期待されています。

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